2014年9月30日火曜日

移植成功

 7月の投稿で紹介した作品「Tele-Flow」をウェスティンホテル仙台のアート企画「The Westin Art Showcase Exhibition vol.7」として展示することになった。前回の展示では他の作品も並んでいる中で、かつ、藝大は上野公園の一部なので、ながしず同様、蝉時雨もかなりの音量で、遠く離れた植栽地の雰囲気を展示会場に「立ち上がらせる」のがやや困難だったのだが、今回は作品は一点のみ、しかもホテルのロビーの一角を区切って画廊空間にしているので、ホテルの無機質な空間にながしずの虫の鳴き声や鳥のさえずりがとても際だっている。現場の空気感もろともデジタルに移植するというコンセプトは今回のような都市にあってこそかも知れない。こちらで映像が見られます。会場に居ると、都市の風景の移ろいに自然の営みの気配が重ね合わされて、とても不思議な感覚に陥ります。10月23日まで。お近くの方は是非お立ち寄り下さい。

9月11日(木)~10月23日(木)
時  間:12時~17時
会  場:ウェスティンホテル仙台 1階
     The Westin Art Showcase
入  場:無料
お問合せ:022-722-1234(代表)
協力:株式会社 JVC ケンウッドデザイン
http://www.westin-sendai.com/news/showcase.html


2014年9月28日日曜日

「水」中の栗を拾う

 栗拾い、普通は地面に落ちた栗を拾う秋の風物詩だ。運良く「落ちたて」の栗なら虫にも喰われず瑞々しいまま収穫となるが、なかなか全てがそういうわけにもいかず、結局結構ボツにせざるを得ない。そんななか、以前からヨメさんが川に大きく張りだした栗の木があることに気付いていて、ひょっとして、と川に降りてみると…あるわあるわ、水中だけに虫食いもなくピカピカの栗がゴロゴロと。あっという間にコンビニ袋が一杯に。あとは熊に残しておいてやるとして早速皮むき。水中に浸っていたとあって、鬼皮でも素手でつるりと剥ける。渋皮もペティナイフの背で簡単にこそげ取れて、二人で小一時間でこんなに。早速栗ご飯。わざわざ七輪で焼いたサンマと一緒に秋のめぐみを満喫。
「火中」ならぬ、栗は水中で拾うべし、我が家の新常識。




2014年9月25日木曜日

身体の拡張

 同僚の尽力で、縁あって大学で活版印刷機を譲り受けることになった。埼玉県朝霞の職人さんによって40年にわたって丹精込めて使い込まれた印刷機は、思ったより小振りながら機関車のような圧倒的な存在感だった。機構がそのままかたちになった、飾り気の全く無い、無駄な部品はひとつも無い、という意味でこんなに純粋な機械があるだろうか。

 今回の訪問は、大学で印刷機を動態保存、つまり使える状態を維持するために、使い方や手入れの方法を学ぶために学生共々研修を受けるのが目的だ。譲り受けるにあたっては、他にも希望する大学や公的機関があったそうだが、いずれも博物館入りが目的で、動態保存を申し出た宮城大学の提案が職人さんの心を動かしたそうだ。不自由な身体のために印刷業を選んだというこの職人さんの人生も含めてまるごとお譲り頂きたいというこの同僚の熱意を後押しした形だ。

 コンピュータでさえしばらく使わないと調子が悪いように、物理の塊のようなこうした機械はとにかく一度止まると調子が崩れるもので、特に何十年もひとりの人間の手によって使われ続けてきた機械だと、その人のクセのようなものが染み込んだ独特の調子に調整されている。たった二日間の研修では当然そのクセのようなものまで体感できるはずもないのだが、どんな人がどんな手つきで機械を扱うのかを見届けずには責任持って預かれないので、同僚に付き添ってきたというわけだ。

 仕事柄、人と技術の関係には想いをめぐらせることが常だが、今回ほど機械、いや、それを取り巻く空間そのものが「身体の拡張」として感じられたことはない。基本的には規則的に並べられてはいるものの、随所に意味ありげに(あるのだ)ぞんざいに置かれた活字や道具やその棚の配置や角度など、隅々まで職人さんの神経が行き渡っているような、まるで職人さんの体内にいるような工房の雰囲気には圧倒された。活字も含めて一式譲り受けるために、メンテナンスに出される機械以外の棚などを解体することによって、二度と取り戻せないそうした調和のようなものを壊さざるを得ないのは、本当につらい体験だった。快く譲って下さるとはいえ、こちらが勝手に忖度しているのとはかけ離れたほどにアッケラカンとされているとはいえ、人生の一部といっていい機械とその環境が目の前で解体されていく心中は察するに余りある。とてつもなく大切なものを預かることになった。