2014年10月30日木曜日

魂は細部に宿る

 別府に行ってきた。初。竹細工が有名である。なんでも室町時代からの伝統なのだそうだ。作ったことこそないものの、普段からなにかと竹ザルは使っている(拭き漆がしてあって清潔で頑丈)し、編み方も色々と観察して「知って」いるつもりだったが、いやいやどうして、見えていなかった。魂は細部に宿るというが、これはまさにその極致と言える。伝統的な道具だけでなく、芸術としての竹工芸はその編み方が繊細だったり大胆だったりまさに作家や職人の個性が表れていて、外形的に芸術作品であることはひと目で分かる。しかし、それを作品たらしめているのは、外形的な佇まいそのものよりもむしろ、一本一本のヒゴの仕上げ方なのだ。安い品物ではヒゴが面取りされておらず、編み上がったものの表面の手触りがややガサつく感じなのだが、面取りしてあるものは手触りが滑らかでしっとりして掌にやさしいのだ。店の奥からいろいろと銘品を見せてくれたおばちゃんによると、最近は丁寧に面取りする職人さんが減っているそうだ。写真の網代っぽいのはまずは竹を染めてから専用の鉋でスジ彫りしてある。こうした精度の高く手間の係る仕事をする人も減っているとか。これらはいずれも20-30年前の作品だそうだ。小一時間ほど銘品を見せてもらっただけだったけど、ほんの少し品定めのコツが分かった?



2014年10月29日水曜日

自然なのだ

 熊本は泰勝寺に行ってきた。細川家の菩提寺であり、敷地内には細川家の屋敷を利用したギャラリーがある。今回はヨメさんが展覧会に出品するというので付いてきた。展覧会は昨年パリで開催されたグループ展に参加した日本人とフランス人が場所を改めて再会するという企画である。いずれも陶芸の作家さんたちだ。当日は抜群の秋晴れで開け放した縁側が最高に気持ち良く、日本建築はやっぱり季節に抗わない自然体が魅力だとあらためて感じた。百草の安藤さんによるお茶会や、料理研究家の細川亜衣さんのお料理など、日本の伝統文化の今なりの自然な在り方を自然に体現している方々のもてなしもあり、肩の力の抜けたいい時間と空間だった。
 なんでも、ポール・スミスが最新のトレンドをこの街でモニターするというほど、男性がおしゃれだという熊本。半日市内をぶらぶらしてオシャレメンズウォッチングしてみたが、たしかに、みなさんオシャレ、というか、「オレはこれでオッケーだもんね」という自信というと大げさだが自分らしさを信じている雰囲気は感じられた。まあ、これがファッションの神髄だけど。つまり自然なんだな、みなさん。くまモン人気もその辺が根底にあるのかも。いい街だ、熊本。

2014年10月21日火曜日

仕事は準備が七割

 学生に本格的に乾漆制作を指導することになり、学生用の刷毛を仕立てることにした。漆刷毛は漆そのもの以上に貴重だ。毛は人毛を使用し、糊と漆でカチカチに固めて木の板でさらにガッチリ固めてひとつづつ手作りされる、これ自体が工芸品のようなものなのだ。ご多分に漏れず後継者も少なく、そもそも刷毛の需要も爆発的に増えるとも限らないので、この先どうなる?と僕が学生だった20年前から言われ続けている世界だ。爆発的に増えないにしてもなんとか現状くらいは維持したい、そのためと言っては大げさだけど、ウチの学生の中から近い将来のユーザーが生まれればいいな、と。さておき、漆刷毛は職人さんでもそんなにみるみる摩滅するものではないので、仕立てる作業は滅多にしない。学生時代にちゃんと使わないまま放ってあった刷毛を再生しようと、思い出しつつ作業してみる。5年以上はやってないな。まずは先端をズバッと切り落とし鉛筆を削るように鉋の刃で砲弾型に整えていく。あとは石けんとお湯でひたすら糊を溶かしてゴミを掻きだし、しなやかな穂先に仕上げていく。最後に漆を使ってほんの小さなゴミを掻きだしたら完成。ここまで2時間。本職に見られたら恥ずかしい仕上がりだが、漆を塗れるようになるまで道具を仕立てるのに2時間、もちろん毎回これをするわけではないが、普段でも刷毛の準備(念入りに漆でゴミ出しする)や後始末(菜種油で洗浄)だけでも小一時間はかかるのだ。職人さんならそうでもないが、僕らの作業量なら実際に仕事してる時間よりも準備にかかる時間の方が長いくらいだ。感覚的には準備7割、仕事3割くらいか。もちろんこんなバランスでは仕事にならないが、良い仕事をするために入念に作業環境を整えて準備する時にはこれくらいの気分であることは間違いない。さあ、作業と思ったら「次の時間、授業なので失礼します。」みたいな大学のカリキュラムだとなかなか本気でモノ作りは教えられない、このジレンマ。