2013年9月20日金曜日

漆の精製

 山形に漆を見に来た。東北は漆の産地として有名だが、宮城県は漆を一滴も生産していない。漆塗りの文化財が東北一多く現存する宮城県が、その原料たる漆を生産していないのはいかがなものか?ということで、震災で耕作放棄されている農地に漆の木を植えようという計画がある。ウルシ(樹木としての漆はウルシと書く)は人里離れた山間部にひっそり、というイメージだが、時折「漆畑」という地名や名字があることからも分かるように、ウルシは実は畑に植えられていたものである。江戸時代には、茶・桑・楮、三椏(こうぞ、みつまた:紙漉きの原料)・桐・漆は五木と称して畑に植えてよい樹木とされていたそうだ。いわゆる園芸種として平地に伸び伸びと植えて人が手をかけてこそ、健康に育つということを提唱している研究者や民間の活動家がいて、彼らのフィールドを見せてもらいに山形へ来たのだ。文化財の修復の現場では、去年山形で採れた漆をくろめていた。「くろめ」とは、生漆(濾過してゴミを取り除いたもの)を天日にあててゆっくり攪拌し、水分を蒸発させる作業のことである。最初は白濁していた漆が4-5時間でゆっくり褐色透明に変化していく様は、作業をしていた方をして、畏敬の念を抱くと言わしめるような、神秘的なものだ。この日本産漆で拭き漆をすると、ほんのりワインレッドに仕上がるのだ。中国産では決してこういうエレガントな色にはならない。この現場は風呂場で水回りの厳しい環境にも関わらず、漆が施されているおかげで138年間も腐らずほぼ当時の輝きを今に伝えている。この地、山形に30年前に植えられたウルシから採取された漆が、いまも息づく文化財をこれからも守っていく、まさに究極の地産地消であり、人の営みも含めた文化財保護である。


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