2014年6月28日土曜日

SFが実現する?

 遠隔転送装置、SFの中でのお話と思いがちだが、あながちそうでもなさそうだ。事実、そういう独立した装置が存在しているわけではないが、現代の技術の組み合わせによっては実質的に実現するのかもしれない。

 7月中旬に迫った展覧会にむけて新作を制作中だ。「Tele-Flow」と名付けた作品は、ウルシの樹の生体電位を利用して、宮城県南三陸町ながしず地区に植樹されたウルシをデジタルに移植する試みだ。造形は、ウルシの実木から3Dスキャン・3Dプリントした透明オブジェクトと、葉を模した漆フィルムで構成される。マイクロモーターが実装された葉柄は、植樹地からの信号によってかすかに振動し、葉のゆらぎを表現する。音響メーカーにも協力してもらって、現場の風や鳥のさえずり、木のざわめきといった環境音も含めて、南三陸町の豊かな自然の息吹を会場に伝える。

 この構成はすでに単なる物質の転送というレベルを超えて現場の空気感、つまり「空間」そのものを転送しようとしている、ということに、作りながら気付いた。今回は漆、感性表現の研究者、SE、グラフィックデザイン、空間情報学、ヒューマンコンピュータインタラクションといった専門家と学生のグループで取り組んでいる。「デジタルに移植する」というコンセプトに添ってディスカッションを重ねてゆくなかで、自然と必要な技術が選択されて、気がついたらこの構成になっていた。マイクロモーターに先だってバイオメタル(人工筋繊維)を試してみたり、通信の安定にUSBとLANの規格を検討したりと、目的に向けて最適な組み合わせを選択出来るほどに、現代は技術が潤沢に提供されている。なにか特別な単一の飛び抜けた技術というよりも、多様で単純な異なる技術のマッシュアップが現代の様々な新しい仕組みを作っている、ということをとても実感している。

 ながしずでは風が吹き渡り、木々がゆらめき、雨は川となって海に注ぐ。そんなゆったりとした遠くの時の流れを今ここに伝える、から「Tele-Flow」 7月19日から東京藝術大学美術館陳列館にて。是非お運び下さい。
http://materializing.org/

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