2014年3月30日日曜日

危機的?そうでもないかも

 みすや針本舗。京都は三条河原町商店街を少し西に入り路地を抜けたところにある針の専門店だ。観光客でごった返す商店街とはまるで別世界へいざなうような、暗い通路を抜けると静かで落ち着いた小さな小さな店舗が現れる。3人も客が入ればもう満員、なスペースにショーケースを兼ねたカウンターがあるばかり。店主がひとり、あれこれと丁寧に店の来歴から針のことまで、細々と説明してくれる。裁縫はほとんどしないものの、明治万博で展示された針の現物そのものが見られたり、洋裁・和裁で要求される針の「性能」が異なること、手作りでしか作れない「五つ穴」の針のことなど、聞いているだけでめちゃくちゃ面白い。五つ穴というのは、普通一つしか空いていない穴が、縦に五つ並んで空いているもので、十二単の縫製に使うのだとか。こればかりは機械では作れないらしく、熟練の職人にしか作れないという。その職人さんも高齢で、後継者がいないとか。本当に機械で作れないのか、とも思うが、そもそも十二単が日常的なものではないのだから、それを維持するための針を作る機械をわざわざだれも開発しない、というのが本当のところだと思うが、いずれにしろ、ここでも生活様式の変化と後継者不足の典型的な問題が横たわる。そうは説明してくれるものの、不思議ににこやかで明るい店主の笑顔がとても印象的で、悲壮感がかけらも感じられなかった。恐らく何十年も変わっていないだろう包み紙の柄(パッケージのデザイン、とも言えるがちょっと言葉のニュアンスが違う)とか、和鋏の合理的で完成された端正な佇まいとか、小さいながらそれぞれが現代の商品としてもとても魅力的なことが、店主の自信を支えているのかもしれない。裁縫もしないくせにまた来たいと思った。

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