2011年12月8日木曜日

誰でもできる拭き漆

肝心なことを書くのを忘れていた。我が家は連合設計社市谷建築事務所に設計していただいた。住まい方や仕事場としての使い勝手など空間的な性能の検討は当然ながら、僕、そして設計の中田千彦氏はさらにその空間の「質感」にとても拘りたかった。なかでも床については以前から自邸は拭き漆で、と心に決めていたので最初から全ての平面部分は拭き漆と仕様が決まっていたのだが、さて、では調達はどうするのか?という問題があった。単純に拭き漆として仕上がっている建材を買ってくるとべらぼうな値段になってしまうし、なんといってもどの建材もこってりと漆が塗ってあり、品がないといったらない。なのでそもそも「買う」気なんてさらさら無く、自分でやってしまおうと目論んでいた。ただ、総計150平米もある床を1人で出来るわけでもなし、さりとてボランティアをお願いするにしても作業にともなって漆にかぶれたらマズイな、と思案していたところに社長の鶴の一声「では所員がお手伝いします!」ということで、所員さんも「是非に」とお申し出頂いて皆さんでやっちまおう!ということになった。

万全のかぶれ対策をしたところ、まあなんとも物々しい佇まいだこと、お互い笑ってしまったが、今なら(作業は今から2年前)あんまり笑えない姿だ。結構な匂い(漆は生だとかなりクサい)をまき散らしながら白装束で黙々と作業を繰り返す姿はかなり怪しい雰囲気。下地1日、漆2日間で床材150本なんとか目標達成。三日間で徐々に皆さんの段取りも良くなってきて予想外にスムーズに進んで、しかもかぶれも無くひと安心でした。しかし、折角の三連休をつぶして汚れ作業に来て頂ける、しかも東京から、普段から設計のお仕事をされているとはいれ、直接現場作業をすることは希だろうし、勝手も分からない、しかもかぶれるかもしれない恐怖をおして来て頂いた皆様にはほんとうに感謝の言葉もなかった。逆に「貴重な機会を与えて頂いてありがとうございます」なんて言われると体が縮んでしまうほど恐縮したのでした。
拭き漆は木に漆を擦り込んでいく作業の繰り返しで、普通の塗装や染料と違って徐々に木肌に馴染んでいく感覚にみなさんお気づきだったようでした。

今回は費用の関係でやむなく中国産漆を使ったが、おとなり岩手県には漆の産地浄法寺があり、山形でも日本産漆が栽培され収量を増やしつつある。浄法寺の漆は今年のグッドデザイン賞を取ったことだし、いずれは地産地消(もちろん他消でもいい)的に東北の漆を東北の住宅で、というような取り組みにつなげて行けないものだろうか、などと考えてみる。なにせ、この循環型社会を目指すご時世に、漆ほど適った素材もないのだから。

黙っていればそれとは分からないほどに現代の建築に馴染んだ漆の床は、手触り、足触りがすべすべと良く、なんといっても漆の天然の抗菌作用のおかげで年中清潔で快適で、そうだ、これはもっと広くみなさんに知ってもらおうということで、機会がある毎にお見せして説明してきたのだが、ついに東京のある保育園の床を拭き漆で仕上げることになった。園長先生も設計者もとても気に入って下さり、子供のためにとボランティアを申して出てくれる方もでてきて、いよいよ来週から東京某所でワークショップ形式でみなさんで作業と相成りました。拭き漆の体験をしてみたい方は是非ご連絡下さい。


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