2014年10月21日火曜日

仕事は準備が七割

 学生に本格的に乾漆制作を指導することになり、学生用の刷毛を仕立てることにした。漆刷毛は漆そのもの以上に貴重だ。毛は人毛を使用し、糊と漆でカチカチに固めて木の板でさらにガッチリ固めてひとつづつ手作りされる、これ自体が工芸品のようなものなのだ。ご多分に漏れず後継者も少なく、そもそも刷毛の需要も爆発的に増えるとも限らないので、この先どうなる?と僕が学生だった20年前から言われ続けている世界だ。爆発的に増えないにしてもなんとか現状くらいは維持したい、そのためと言っては大げさだけど、ウチの学生の中から近い将来のユーザーが生まれればいいな、と。さておき、漆刷毛は職人さんでもそんなにみるみる摩滅するものではないので、仕立てる作業は滅多にしない。学生時代にちゃんと使わないまま放ってあった刷毛を再生しようと、思い出しつつ作業してみる。5年以上はやってないな。まずは先端をズバッと切り落とし鉛筆を削るように鉋の刃で砲弾型に整えていく。あとは石けんとお湯でひたすら糊を溶かしてゴミを掻きだし、しなやかな穂先に仕上げていく。最後に漆を使ってほんの小さなゴミを掻きだしたら完成。ここまで2時間。本職に見られたら恥ずかしい仕上がりだが、漆を塗れるようになるまで道具を仕立てるのに2時間、もちろん毎回これをするわけではないが、普段でも刷毛の準備(念入りに漆でゴミ出しする)や後始末(菜種油で洗浄)だけでも小一時間はかかるのだ。職人さんならそうでもないが、僕らの作業量なら実際に仕事してる時間よりも準備にかかる時間の方が長いくらいだ。感覚的には準備7割、仕事3割くらいか。もちろんこんなバランスでは仕事にならないが、良い仕事をするために入念に作業環境を整えて準備する時にはこれくらいの気分であることは間違いない。さあ、作業と思ったら「次の時間、授業なので失礼します。」みたいな大学のカリキュラムだとなかなか本気でモノ作りは教えられない、このジレンマ。




0 件のコメント:

コメントを投稿