2014年4月20日日曜日

すっぴん

 クルマの話を少々。89年式プジョー309GTI。205というコンパクトなハッチバックは日本でも一世を風靡した感があるが、この309はほとんど見かけたことが無い。309と言えば、クルマを長く乗るヨーロッパではいまでも現役バリバリでタクシーなんかにも良く使われている。一昨年南イタリアを旅した時にも3〜4台は目にした。コンパクトな205を大人4人が座れるようにホイールベースをストレッチしてトランクをくっつけたような、昔でいう3ボックスなれど、2ドアでノッチバックという、謎のデザイン。リアウインドーごとガバッと跳ね上がるノッチバックは意外と使いやすくて、可倒式・完全フラットのリアシートを畳めばかなり大きな荷物も飲み込めるのだ。つまりファミリーカーとして設計されているのだが、このGTIは1.9LのただのOHVから130馬力、185/55/15という当時としてはかなり大径&扁平のタイヤを履いた、走りにこだわったグレードだ。5速・100km/hで3000回転近く回ってしまうローギヤード設定と、今の常識からすれば「超軽量」といっていい970kgの軽量ボディーのおかげで、のけぞるような加速は強烈だ。オールアルミのエンジンでシングルカムのおかげもあって軽いボンネットは重心も低く、ほとんどロールしない足回りで回頭性が高くアンダーステアとは無縁だ。このスペックでも、ストロークたっぷりのサスペンションのおかげで乗り心地が良いのがフランス車の矜恃といったところだろうか。マニュアルミッション、電子デバイスなし、エアバッグなし、衝突安全基準なんてだれも気にしなかった時代の、今では考えられないような本当に「素」のクルマだ。
 普段はすでに17万キロを越えた98年式パサートワゴンに乗っているのだが、興味深いのは89年-98年のこのあたりの10年でクルマはメチャクチャ進化したということだ。すでに16年前の年式とはいえ、エアバッグ(シート含む)、電子制御の入ったAT、トルク制御デフ、ABS、無線式ドアロック、サイドインパクトビーム、前後クラッシャブルストラクチャー、などなどほぼ現代の標準が揃っている。最新技術では自動ブレーキだとかアンチスリップなどのアクティブセーフティー系が目白押しだが、これはクルマの進化というよりはコンピュータとセンサの進化といっていい。走る、曲がる、停まるの基本性能はこの10数年ほとんど変わっていない。快適になり安全になったことは結構なことだが、クルマに乗っている、というより乗せられていると感じるクルマばかりなのは、クルマが完全に大衆化した証なのかもしれないが、走りを優先した高性能車であっても、ドライバーをサポートするなにがしかの電子制御を完全に断ち切ることができるクルマは皆無(ケーターハムが軽のセブンを出すらしいが。。)な現代で、309のこの「素」な構成は本当に貴重で、個人的な思い入れ以上にクルマの文化史的な意味でもコンディションを維持して乗り続けたい、ということで車検を通す正当な理由としよう。


0 件のコメント:

コメントを投稿