2014年1月31日金曜日

大先輩

 縁あって古い漆室(ムロ)を手に入れた。ムロとは漆を塗った漆器などを乾燥とホコリよけのために収納しておく箪笥のようなものだ。この内部を湿らせて湿度を高い状態に保たないと漆は乾かない、というか固まらない。空気中の水分を取り込んで化学変化によって「硬化」するのだ。湿度・温度の状態にもよるが、おおよそ半日ほどはその状態を維持しないといけない。安定した湿度を保つためには水分をほどよく保持してくれる材がよい。具体的な仕組みは分からないが、学生時代、先輩たちが長年使い込んで馴染んだムロの方が新しいムロよりも「機能」していた経験があるので、中古のムロを探していたところ、廃業した福井の漆職人さんから融通していただいた。
 分解された状態で納品されたものを学生と組み立てた。ほぼ完成、という段階にきて部材に昭和9年と書いてあるのを発見。つまり80年前だ。どんな道具もそうだが、年季を重ねて使い込まれた道具にはどこか威厳のようなものがある。本職が使っていたものなら尚更だ。ウチの大学は新しくまだ20年にもならない。この空間はもちろん、この大学の何より、誰よりも年月を重ねてきているのだから、ムロ周辺の空気が一変して当然だ。目に見えない知識や経験がそこに詰まっているのは間違いないのだが、使わないことにはそれらは引き出せない。学生に伝えるためにどう使うか、とても大きな課題がやってきた。


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